レポート(取材記事)

僧帽弁形成術・三尖弁輪縫縮術の基礎知識と手技をエキスパートに学ぶ(1/4)

2019年11月17日(日)、メドトロニックイノベーションセンターにて、「P2P Excellence - for the Best of Best 最善の治療をエキスパートと共に考える」が開催されました。今回のプログラムでは、僧帽弁形成術(MVP)と三尖弁輪縫縮術(TAP)に関するレクチャーとブタハツを使用したウェットラボが行われました。
今回のプログラムのトレーナーを務めたのは、柴田利彦先生(大阪市立大学)と紙谷寛之先生(旭川医科大学)です。


僧帽弁形成術(MVP)に関するレクチャー

紙谷寛之先生からは僧帽弁閉鎖不全症のCarpentier分類とFolding法によるMICS僧帽弁形成術について、柴田利彦先生からは正中切開でのループテクニックを用いた僧帽弁形成術について、それぞれレクチャーがありました。今回のレクチャーでは、僧帽弁形成術を行うにあたり重要となる解剖の知識をはじめ、視野展開のポイントやそれぞれの手技の注意点や応用法などが、実際の手術事例を基に解説されました。

簡便な手技を中心としたMICS僧帽弁形成術

紙谷先生

 

僧帽弁形成術は広く普及した術式であり、その手技も多様化してきています。しかしながら、日本における外科医1人あたりの僧帽弁形成術年間症例数は、平均で20例程度であると予測されています。このような状況において、手技の標準化は難しいといえるでしょう。 MICSに関しては、正中切開よりも視野展開は良好だと考えますが、細かい操作の面について言えば、正中切開よりも劣ります。僧帽弁形成術で人工腱索を移植するとき、わずか1~2mmのずれが生じただけでも合併症や再発などのリスクが懸念されます。ですから、私の僧帽弁形成術の方針は、MICSであるか正中切開であるかにかかわらず、できる限り簡便な手技を中心に行うということです。そこで本日のレクチャーでは、ループテクニックを用いないFolding法による僧帽弁形成術についてお話しします。
とはいえ、ループテクニックは心臓外科医が覚えておくべきテクニックです。後半の柴田先生の解説を聞いて、ループテクニックの知識もしっかりと習得してください。

僧帽弁閉鎖不全症のCarpentier分類と逸脱弁尖へのアプローチ

僧帽弁閉鎖不全症の分類法として有名なCarpentier分類では、僧帽弁閉鎖不全症をタイプⅠ~Ⅲbに分類しています。このうちタイプⅡはもっとも疾患頻度が高く、弁尖の逸脱がみられ、病変部位に応じて標準的な再建法が異なります。
前尖病変の場合は人工腱索が基本となり、交連部病変は人工腱索+マジックステッチが標準的です。そして、後尖病変に対しては様々なテクニックが存在します。

タイプⅡの Fibroelastic Deficiency (FD)では、基本的にheight reductionは不要で、病変が交連部に近いP1またはP3であれば人工腱索を移植します。病変がP2の場合は三角切除や、後ほど解説するFolding法を用いることが多いです。Advanced FDではheight reductionが必要になる場合が多いので、原則的に三角切除を行いますが、Folding法で対処するケースもあります。Forme frusteについては、日本人の発症頻度は低いですが、height reductionが必須であり、広範囲の三角切除または四角切除が適応されます。1針2針で弁輪を局所的に寄せないと、接合させた弁尖にストレスがかかってしまうので注意しましょう。

Folding法による僧帽弁形成術

Folding法では、四角切除後に残存した弁尖をそのまま弁輪中央部分に折りたたみ縫合します。弁輪を縫縮しないので、リトライが可能であることが利点です。手術時間も3時間程度で、万が一の場合は人工腱索に移行することもできるため、術者にとって安心感のある手技といえます。

Folding法はFDをはじめ、Advanced FDに対しても有用で、弁尖の分厚い症例にも適応できます。ただし、弁尖が硬い症例の場合は接合部位から漏れが生じることがあるため、三角切除を行うことを推奨します。

局所麻酔によるMICS (Awake MICS)

最後に、私が現在積極的に実施している“Awake MICS”についてです。この患者さんは、severe MRかつ全身麻酔アレルギーであり、過去の手術での全身麻酔導入時に心肺停止に陥った経験があるため、全身麻酔を回避しながら手術を行う方法を検討する必要がありました。この結果、Awake MICSを適応しました。
Awake MICSは、手術時間を長く設けられず、麻酔の導入および管理が難しい術式ですが、低侵襲で回復が早く、アレルギーの患者さんにも手術を行えるという利点があります。将来的には、Awake MICSが弁膜症手術における一つの形になる可能性があると考えています。


正中切開での僧帽弁形成術における内視鏡の活用

柴田先生

 

僧帽弁形成術を習得するにおいてもっとも大事なことは、基本的な術式である正中切開での形成術を確実にマスターすることです。
どんな方法であっても、しっかりと視野が得られなければ手術は行えません。私の場合は正中切開による僧帽弁形成術でも、内視鏡を用いて手術を行っています。この目的は、安定した術野を確保しスタッフ全員に共有することと、手術の質の向上です。

内視鏡は真正面から病変部を写す形になるため、良好な視野のもとで弁を観察することが可能となります。その結果、より確実に手術を行うことができます。このように、内視鏡はMICSのためにあるのではなく、正中切開でも利用できることを覚えておいてください。
また、将来的にMICSへの移行を考えるのであれば、正中切開の時点からlong instrumentに慣れておきましょう。

視野展開に重要な心房鉤牽引のポイント

僧帽弁へのアプローチ方法の一つである右側左房切開の場合は、右房の授動が命であることをしっかりと頭に入れましょう。心房鉤牽引のポイントは、1本の鉤で押し寄せて上げるように引くことです。こうすることで、僧帽弁全体が上がり、立て向きに僧帽弁が展開し、良好な視野を得ることができます。

胸壁が分厚くて右側左房が見にくい方や、右房が右側に寄っている方の場合は右側左房アプローチが難しいため、径中隔アプローチによる僧帽弁形成術を行います。このとき心房鉤牽引で大事なことは、鉤のサイズと形です。通常サイズの鉤ではマージンが取りづらく、前尖側の視野が確保できないため、小さなサイズの心房鉤を使用します。切開範囲については、ほとんどの場合、左房の天井まで切開する必要はありません。卵円窩を1.5cm切る程度に留めましょう。

ループテクニックのポイント

ループテクニックの利点は、弁尖を切除しないこと、前尖・後尖共に同じ手技を用いることです。あくまで自己流ではありますが、私の行っているループテクニックについて解説します。

まずは腱索の長さの計測です。人工腱索再建でどの乳頭筋を使うかを考える際は、弁のミッドラインを意識します。様々なバリエーションが存在するので、しっかりと観察することが重要です。基本的には腱索断裂のあった場所の乳頭筋を用いて再建を行います。
ループセットは、CV-4プレジェットと1mm間隔の自作のプレジェットホルダーを用いて作成しています。ノットが大きくなりすぎると手術の妨げになるので、ループ回数は3ループまでが限度だと考えましょう。私の場合、ノットは5回しか結びません。一般的には8回程度結ぶといわれていますが、糸の方向を変えつつノットを結べば、5回でもしっかりと固定されます。

広範囲P2逸脱例ではループは2つ必要となり、前乳頭筋、後乳頭筋両方ともに糸を掛けていきます。
インクテストを行う際には、前尖のクリアゾーンとラフゾーンの間ならびに後尖の中心部に点を置きます。この点と点がおよそ5㎜の接合範囲Coaptation areaとなります。最終的にCoaptationが良好になれば、インクは目視で確認できなくなります。つまり、インクが見えている限りは、弁が十分に修正しきれていないということができます。このように、インクテストは弁形成のストラテジーとして利用することができるので、インクを使用する場合はこちらの方法を用いることを推奨します。

次:僧帽弁形成術のハンズオントレーニング

 

 

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