レポート(取材記事)

僧帽弁形成術・三尖弁形成術の基本と治療戦略・手技をエキスパートに学ぶ(1/8)

2019年6月30日(日)、メドトロニックイノベーションセンターにて、「P2P Excellence - for the Best of Best 最善の治療をエキスパートと共に考える」が開催されました。今回のプログラムでは、僧帽弁形成術と三尖弁形成術に関するレクチャーとブタハツを使用したウェットラボが行われました。
今回のプログラムのトレーナーを務めたのは、坂口元一先生(近畿大学)と恒吉裕史先生(静岡県立総合病院)です。

僧帽弁形成術に関する基礎と手技

午前はまず僧帽弁形成術について、坂口元一先生からは基本の大切さ、恒吉裕史先生からは術前ストラテジー決定の重要性に関してのレクチャーがありました。主に、安全に僧帽弁形成術を行うために非常に重要なこととして、僧帽弁の解剖を理解した上での弁輪への糸掛け、実際に手術を行うにあたり配慮すべき注意点、そして手術前にしっかりと治療戦略を決めておくことについて解説されました。

僧帽弁形成術では僧帽弁の解剖の理解が重要

坂口先生

 

僧帽弁形成術による合併症の発生を防ぎ、安全に手術を行うためには、僧帽弁の解剖を理解しておくことが欠かせません。
弁輪への糸掛けのときに問題になるのは、冠動脈付近にあるCXに糸を引っ掛けてしまうことです。冠動脈に近いところは非常に糸掛けがしにくい場所で、むやみにいじると糸が引っ掛かる恐れがあることを覚えておきましょう。また、trigoneの場所を間違えてずれた位置に糸掛けを行うと、大動脈弁を傷つけてしまうこともあります。後内側のtrigoneの奥には刺激伝導系もあるので、注意が必要です。
trigoneの位置を正確に押さえておけば、後はほとんど問題なく糸掛けを進めることができるはずです。

弁輪への糸掛けのテクニック

今回ぜひ皆さんに覚えておいていただきたいのは、AnnulusとHingeは別の部分であるということです。図のように、AnnulusはHingeの数ミリ奥側にあります。
後尖においては、Hingeから2mm程度離して糸を掛ければ重要な組織を傷つけることはまずありませんが、僧帽弁閉鎖不全症では前尖の境界がわかりにくくなっていることが多いので、前尖の糸掛けには注意が必要です。境界が見えづらいときは、上のスライドのように前尖を持って上に引き上げてみましょう。Annulusが固定されてHingeだけが浮き上がってきます。こうすることで、大動脈弁との間に糸を掛けやすいスペースが生まれます。前尖を引き上げた状態のまま、Hingeの部分から1mmほど離れた場所に糸掛けを行います。この手技は弁輪への糸掛けに非常に役立つので、覚えておくことをお勧めします。
また、前尖・後尖にかかわらず、垂直な角度で針を入れると冠動脈を傷つけることがあるので、なるべく浅い角度で行うことが大切です。

P2 Prolapseに対するアプローチ

僧帽弁後尖(P2)に逸脱(prolapse)が生じた場合、私はP2の真ん中から反時計回りに糸掛けを行っています。最初にtrigoneに糸掛けを行う先生もいらっしゃいますが、そうすると視野が得にくくなってしまうと思うので、慣れないうちは自分にとってわかりやすい位置から糸を掛けることをお勧めします。

SAMへの対応のポイント

僧帽弁形成術において、収縮期僧帽弁前方運動(Systolic Anterior Movement;SAM)の出現はもっとも気を付けなければならない症例です。
スライドは、重度のP2 prolapseの症例です。通常、SAMへの対応としては、輸液などで血液量を増加させ、カテコラミンを中止するという手順が一般的です。本症例でも一般的な対応をした結果、SAMの形態は残ったものの、逆流・圧格差ともに消失し、術後経過も良好でした。ところが、術後1週間が経過した頃に、患者さんが階段昇降時などの労作時に息切れや眩暈といった自覚症状を訴えたため、運動負荷試験を行ったところ、SAMの所見が認められました。そこで、バタフライ法で再びP2を切除し、height reductionを行うことになりました。
SAMではこのようなケースもみられるので、退院後すぐに運動負荷をかけて、心機能に問題がないかを確認することが重要です。また、P2の後尖の高さが20mmを超えている症例は、積極的なheight reductionを行うことを推奨します。

Barlowは必ずしも難しい症例ではない

Barlowに関しては、確かに難しい症例がいくつかありますが、ring を入れるだけで完了する症例もあります。ring を入れて済むような症例の場合、人工腱索は不要です。ですから、Barlowは敷居が高いと考えずに、積極的に治療に取り組んでみてください。まずはring をかけて様子見とし、必要に応じて追加で治療を行うことを推奨します。

僧帽弁形成術の注意点のまとめ

私が僧帽弁形成術を行う際に気を付けていることをまとめると、以下の通りです。

  • 術前の経食道エコーが重要
  • 弁輪への糸掛け
  • 切除しすぎない
  • 脆弱な組織に糸を掛けない
  • 水テストの空気抜き
  • 水テストで確認しながら弁の形態を整える
  • 心筋保護液投与中の大動脈基部の圧

僧帽弁形成術では、術前経食道エコーが重要です。心停止の上で水テストを行っても、完全に病変が再現できるわけではなく、弁輪が大きすぎて水テストそのものができないこともあります。迷ったら術前に実施した経食道エコーを確認して、術前のストラテジーを信じることが大切です。
また、水テストのときに空気が混入してしまうと、僧帽弁形成術後にEFが悪くなることがあるので、空気はきちんと抜きましょう。

次:僧帽弁形成術におけるストラテジーの決定

 

 

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