レポート(取材記事)

大動脈弁置換術・僧帽弁置換術の治療戦略と手技をエキスパートから学ぶ(1/5)

2019年6月16日(日)、メドトロニックイノベーションセンターにて、「Hot Experience ~One Day Intensive Training 弁膜症手術の基本にFocus」が開催されました。本プログラムの目的は、弁膜症疾患に対応していくための、大動脈弁置換術および僧帽弁置換術の基本的なテクニック全般と考え方を学ぶことです。プログラムでは、少人数制でのWet Labおよびレクチャーを実施しました。
プログラムのトレーナーを務めたのは、岡田健次先生(神戸大学医学部附属病院)、若狭哲先生(北海道大学病院)です。

大動脈弁置換術に関するレクチャー

まずは、岡田健次先生による外科的大動脈弁置換術(SAVR)に関する講義がありました。冒頭にて、TAVR/TAVIの実施件数が増えてきていることに触れ、その上で外科的大動脈弁置換術を行うメリットとその手技について解説されました。

外科的大動脈弁置換術のメリット

外科的大動脈弁置換術時におけるメリットは、

  • 弁周囲逆流(PVL)が少ないこと
  • 術後のペースメーカーの留置が少ないこと

の2点であるといえます。

実際に、外科的大動脈弁置換術における弁周囲逆流の発生率を示したデータがあります。程度にもよりますが、通常の外科的大動脈弁置換術では1.7%の割合です。一方、Sutureless 弁を使用した AVRの場合は3~6.9%の割合で弁周囲逆流が発生するとされています。つまり、Sutureless弁を用いた大動脈弁置換術では、弁周囲逆流の発生率がやや高いことがわかります。

また、大動脈弁置換術後の早期のペースメーカー留置後の長期的死亡率を調べたデータでは、ペースメーカー留置を行わなかった例(No PPM)に比べ、ペースメーカー留置例(PPM)の術後の死亡率は高くなっています。ペースメーカーは体にとっては異物であり、体に異物が入れば感染の機会も増えることになります。ペースメーカー留置後の不自由な生活が、生命予後に関わることを示したデータといえるかもしれません。
だからこそ、大動脈弁置換術を行う心臓血管外科医は、ペースメーカー留置による死亡を絶対に起こしてはならないという覚悟で執刀すべきだと考えます。

機械弁と生体弁、どちらを選択する?

人工弁には、機械弁と生体弁があり、それぞれに短所があります。

人工弁のデメリット

  • 生体弁:構造的劣化
  • 機械弁:長期的なワーファリンの服用による出血リスクの増大

機械弁と生体弁の選択における判断基準は、両者の特徴と患者さんの年齢です。これらのバランスから、その患者さんにとってどちらの弁が適しているのかを選ぶことになります。

過去の研究では、45~54歳の年齢層においては、機械弁のほうがやや死亡率が低いという結果が出ています。これに対して、55~64歳では、生体弁と機械弁の死亡率の差がほとんどみられなくなります。つまり、55~64歳までの患者さんには、機械弁と生体弁のどちらを使用しても問題なく、患者さんのご希望や生活スタイルに応じて弁を選択できると考えることができます。
近年、世界的に生体弁の適応が拡大してきています。今後の日本では、TAVRが保険収載されたことを考えても、生体弁による大動脈弁置換術がより一層広がっていくと予想されます。

若年層患者に生体弁が選択されるケースが増加している

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012年改訂版)では、生体弁の使用を65歳以上(class1)とする基準を設けています。
これに対して、ACC/AHAのガイドラインでは、機械弁または生体弁(グレーゾーン)とする幅が50歳から69歳までと、グレーゾーンを幅広く設けていることが特徴です。50歳から69歳の年齢に該当する患者さんは、弁の特徴に関する説明を受けて、自分自身で使う弁を選択しています。
また、ESC/EACTSのガイドラインでは、60歳から64歳までを同様にグレーゾーンとしています。
生体弁において長期耐久性の成績が多く報告され、さらに先述のとおり若年層における死亡率が機械弁と差がないことが報告されたことなどから、より患者さんのライフスタイルに合わせた治療が選択できるようになり、欧米ではガイドライン上においても生体弁の適応年齢が下がってきているのです。

日本のガイドライン上でも、今後は生体弁の選択基準となる年齢が若年層にシフトして、患者さんが使用する弁を選択できるように変化していくのではないかと考えられています。

外科的大動脈弁置換術における手技のポイントと注意点

大動脈弁置換術は、大動脈切開および視野の展開・大動脈弁切除・人工弁のサイズ決定・人工弁縫着という流れで行われます。

大動脈切開および視野の展開のポイント

  • 大動脈基部の近くで切るか、離して切るかは好みに応じて選択する
  • Horizontal J shapeの形で切開する場合、特に弁輪の小さな人には弁輪拡大を行う可能性があるので注意
  • 切開の方向としては、交連部に向けて切っていく方法を推奨
  • 術野の確保のために、腱索糸をかけて展開しておくとよい

私の場合、右冠動脈は大動脈基部からおよそ10mmと、やや近めの位置で切ることが多いです。


大動脈弁切除のポイント

  • 弁輪ぎりぎりの部分で切除することが理想的
  • 大動脈弁輪付近で切除するときに強く引っ張ると弁輪がはがれる恐れがあるので注意
  • 石灰化の部分と弁輪の部分にある境界線をはさみで探るようにして切除する
  • 石灰化の除去の際に破片が左室腔内に落ちることを予防するため、あらかじめガーゼを入れておくなどの対策を忘れない

できる限り弁輪ぎりぎりの位置で、かつ一度で切除しきることが望ましいのですが、慣れるまではあまり意識せず、弁輪から少し余裕を持った位置で切除しましょう。また、弁輪が欠損した場合は、下から挟み込むようにステッチを入れて修繕します。ただし、パッチを当てて修繕するまでに至る症例はめったにありません。

弁輪への糸掛けのポイント

弁輪への糸掛けではまず交連部に3針、ステッチをsupraに入れて引き上げ、良好な術野を確保します。交連間には、3針または4針を入れます。私の場合、Non-everting mattress(針糸を下からかけてプレジェットを弁輪下に留置する)で行うことが多いです。
糸掛けの際、冠動脈の位置を常に確認しておく必要があります。なぜなら、後述する二尖弁の病態などでは、右冠動脈に走行異常がみられることがあるためです。術前より二尖弁の方の場合は、冠動脈の状態に注意してください。

結紮の基本と注意点

基本的なことではありますが、弁尖に接触・損傷しないよう、向きに注意して結紮を行いましょう。たとえば上図のようなケースで弁尖を横切るように結紮すると術野が狭くなります。こういったケースでは助手に鑷子で横側の糸を軽く握ってもらうことを推奨します。

結紮の順番は、基本的に弁輪に近い左のNadirから順に行い、後は順番に結んでいきます。人工弁が浮き上がった状態で結紮しないように、ターニケットで締めてから結ぶと安心です。Nadirの部分にターニケットを通して弁輪に固定し、密着させた状態でターニケットの両脇を結ぶようにしましょう。もしも浮いた状態で結紮するとエアノットになったり、弁周囲逆流をきたしたりする恐れがあります。

私の場合は結紮でプレジェットを密着させますが、あまり密着させない方法で結紮を行う医師もいます。皆さんに私のやり方を推奨するわけではありませんが、きっちりとプレジェットを並べておいたほうがトラブルは起きにくいと考えます。ターニケットも、必ずしも毎回行う必要はありませんが、私の場合は毎回行っています。参考にしていただければと思います。

大動脈二尖弁のピットフォール

大動脈二尖弁(Bicuspid aortic valve)のピットフォールは、二尖弁の弁輪が楕円形になっていることです。二尖弁における弁置換術では、綺麗な丸型ではなく楕円形になっている部分に均等に弁を入れなければなりません。症例に応じて糸掛けを分割させたり、人工弁の大きさを選定したりするなどの工夫を心掛けましょう。人工弁を無理やり入れると変形する恐れがあるので、注意が必要です。

このような手技に関する知識とピットフォールを念頭に置いたうえで、大動脈弁置換術に臨んでいただければと考えます。

次:大動脈弁置換術のウェットラボ

 

 

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