レポート(取材記事)

OPCABのスタンダード化を目指して
−バイパス術の基礎とOPCABの実践的なスキルをエキスパートから学ぶ(1/3)

2019年5月26日(日)、メドトロニックイノベーションセンターにて、「New Frontier~Beyond the Future OPCABの醍醐味をエキスパートと共に体感する」が開催されました。プログラムでは、エキスパートの先生によるレクチャーと、拍動シミュレーションモデルを用いたハンズオントレーニングが行われました。プログラムのトレーナーを務めたのは、福井寿啓先生(熊本大学)と真鍋晋先生(土浦協同病院)です。


Off pump CABGは有効な治療戦略となりえるのか?

はじめに、真鍋晋先生のレクチャーが行われました。レクチャーでは、「Off pump CABGは有効な治療戦略となりえるのか?」というテーマで、エビデンスとテクニックから学ぶOff pump CABGの有効性についてお話がありました。

CABGの究極の目標「遠隔期生存率の改善」

真鍋先生

 

CABGの究極の目標は、遠隔期生存率を改善させることです。しかし、日常診療のなかで、私たちが遠隔期生存率の改善を実感することは困難です。そこで、世界中で行われている臨床研究の結果を参考にしながら治療法を検討し、遠隔期生存率の改善を目指す必要があります。

On pump vs Off pump CABG「ROOBY試験」

CABGに関する有名な臨床研究に「ROOBY試験」があります。これは、On pump CABG と Off pump CABGの治療成績を比較した他施設共同無作為化比較試験です。
ROOBY試験の大きな特徴は、症例数の多さです。ROOBY試験より以前に行われたいくつかの無作為化比較試験では401例が最大であったことに対し、ROOBY試験は2203例(全米18施設)が試験にエントリーしています。
ROOBY試験のもうひとつの特徴は、両グループのうち各660例が術後1年で血管造影を行っていることです。欧米諸国ではCABG後に血管造影を行うことは少ないことから、CABG後に血管造影を実施している点は、非常に特徴的なことといえるでしょう。
これらの特徴から、ROOBY試験は、大規模かつ詳細な調査をしている臨床試験であることが分かります。

ROOBY試験の結果は2017年に報告されました。その結果は、On pump CABGに比べてOff pump CABGの方が、5年生存率が低いというものであり、我々心臓血管外科医に大きな衝撃を与えました。

それではこの結果を受けて、単純にOn pump CABGを選択するべきなのでしょうか。
そもそものOn pump CABG とOff pump CABGの違いを考えてみましょう。両者の違いは、まったく同等のCABGが行われているのであれば、人工心肺の有無だけです。しかし、身体的負担の大きな人工心肺が体によいはずがないにも関わらず、ROOBY試験ではOn pump CABGの方が良好な治療成績を示したのはなぜでしょうか。
その要因として、「まったく同等のCABGが行われている」という大前提が崩れていた可能性が考えられます。それでは、ROOBY試験で行われたCABGについて細かくみていきます。

ROOBY試験のCABGは同等レベルで行われていたのか

※ROOBY試験の執刀医はレジデントの割合が多い

まず、ROOBY試験ではどのような医師がCABGを執刀したのかをみていきます。 ROOBY試験の参加資格は、

  • 少なくとも20例のOff pump CABGの経験がある
  • 平均執刀数が120例、中央値50例
  • レジデント(卒後6~10年)を含む

とされています。

このうち、「レジデント(卒後6~10年)を含む」という条件に注目してみます。論文では、レジデントの割合が明らかにされており、両グループ共に約70%(アテンドと協力して執刀している割合を含む)をレジデントが執刀していることが分かっています。

※Off pump CABGの方がグラフト吻合の完遂率、グラフト開存率が低い

グラフトの吻合率についても、論文のなかで報告されています。予定していた吻合が完遂できなかった割合は、On pump CABGで11.1%、 Off pump CABGで17.8%と、Off pump CABGの方がグラフト吻合の完遂率が低かったことが分かっています。
さらに、術後のグラフト開存率もOff pump CABGの方が低かったことが分かっています。先ほどお話ししましたが、ROOBY試験では各グループから660例ずつを対象に、術後1年で血管造影を実施しています。
血管造影の結果、グラフトの開存率は、On pump CABGで87.8%、Off pump CABGで82.6%と、約5%もの差がみられました。特にOff pump CABGでは、静脈グラフトの開存率が76.6%と有意に低い数値を示しています。
さらに、すべてのグラフトが開存していた方の割合は、On pump CABGで全体の63.9%、Off pump CABGで全体の50.1%という結果が出ています。つまり、Off pump CABGでは約2人に1人が、1年後にはいずれかのグラフトが閉塞していたことが分かります。

※Off pump CABGでは、術中に心筋梗塞を起こした症例が多い

私自身、最も衝撃を受けた結果が、心筋梗塞の回避率です。
そもそもCABGは、心筋梗塞を予防するための治療です。しかし、ROOBY試験のOff pump CABGでは術中に心筋梗塞を起こした症例が多く、回避率が低かったことが明らかとなっています。

ROOBY試験では、技術の差が結果に大きな影響をもたらしている

これらの結果から、ROOBY試験のOn pump CABG とOff pump CABGでは、手術の質に大きな違いがあり、技術の差が研究結果に大きく影響したと考えられます。
もし、薬物治療の比較試験であれば、医師の技術によって結果が左右されることはありません。心房細動の抗凝固療法に関する大規模臨床試験「BAFTA試験」では、75歳以上の心房細動患者に対するワーファリンの有効性が示されています。この結果を受けて、臨床現場でも75歳以上の心房細動患者にワーファリンを使用することは、妥当な選択であるといえます。

しかし、技術の差が生じているROOBY試験の結果を受けて、「On pump CABGの方が有効な治療である」ということは単純にはいえません。
ROOBY試験から得られる本当の結論は、CABGの方法が生存率に影響するのではなく、「血行再建ができなければ生存率が低下する」ということです。そして、これについては、ROOBY試験のあとに行われた「GOPCABE試験」で示されています。

血行再建の重要性を示した「GOPCABE試験」

GOPCABE試験は、ROOBY試験と同じくOn pump CABG とOff pump CABGの治療成績を比較した他施設共同無作為化比較試験ですが、ROOBY試験とは明らかに異なる点があります。それは、参加資格です。

GOPCABE試験の参加資格は、

  • On pump/Off pump CABGの両方に熟練している必要がある
  • Off pump CABGの執刀数 平均514例、中央値322例
  • On pump CABGの執刀数 平均1378例、中央値578例

とされており、CABGに熟練したエキスパートであることが条件です。

そして、今年(2019年)GOPCABE試験の結果が発表されました。すると、両者の5年生存率に有意差がないことが明らかとなったのです。

さらにGOPCABE試験では、

  • 血行再建が完全にできたOn pump CABG
  • 血行再建が完全にできたOff pump CABG
  • 血行再建が不完全に終わったOn pump CABG
  • 血行再建が不完全に終わったOff pump CABG

の4グループでも、5年生存率を比較しています。

その結果、On pump/Off pump CABG関わらず、血行再建が不完全に終わったグループの方が、5年生存率が低いという結果が得られました。この結果から、手術の方法によってではなく、血行再建ができるかできないかによって、遠隔期の予後が左右されるということが分かったのです。

Off pump CABGを行う上で心がけるべきこと

ROOBY試験・GOPCABE試験の結果から、Off pump CABGでは血行再建がうまくできないことがあり、さらに血行再建の質の低下は生命予後に直結することが分かりました。そのため、皆さんがこれからOff pump CABGを行うなかで、グラフト吻合ができないと判断した場合には、躊躇せずにOn pump CABGにコンバートするべきだと考えます。そして、術後は必ず血管造影を行い、グラフトがきちんと開存しているかを確認するようにしましょう。

知識と技術を積み重ねていく努力を惜しまない

CABGにおいて、血行再建を完遂させるためには、豊富な知識と技術を蓄積させていくことが重要です。
画家のレオナルド・ダヴィンチも、絵画の技術を高めるために、光学について学んだり、人間の解剖に立ち会って解剖学の知識を身に付けたりしたといわれています。ダヴィンチが残したメモには、怒ったり笑ったりしたときに動く筋肉について、詳細なメモが残されています。そして、この知識の積み重ねによって、彼の最高傑作であるといわれている「モナリザ」が描かれたのです。私たち心臓血管外科医も、「CABGによって遠隔期生存率を改善させる」という目標に向けて、知識や技術を習得し続けていく必要があります。

次:動脈グラフトを用いたSequential吻合

 

 

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