レポート(取材記事)

僧帽弁形成術の治療戦略や手技のオプションをエキスパートから学ぶ(1/4)

2019年1月23日(水)~24(木)の2日間にかけて、倫生会みどり病院にて「P2P Excellence - for the Best of Best 最善の治療をエキスパートと共に考える」が開催されました。今回のプログラムは「それぞれの症例にベストな治療を提供すること」を目標とし、レクチャーや実際の手術見学、ブタハツを使用したハンズオントレーニングなどが行われました。プログラムのトレーナーを務めたのは、岡田行功先生(倫生会みどり病院)です。 本記事では、初日に開催されたプログラムの内容をダイジェストでお伝えします。


僧帽弁逆流に対する形成術の歴史と今後の展望

午前中は、僧帽弁形成術が辿ってきた歴史や今後の展望についての講義がありました。
岡田先生は、まず冒頭に「先人達が執筆した過去の文献からは非常に多くのことが学べる。たとえば、僧帽弁の視野出しも何十年も前に報告され、今もまったく同じ方法で行われている。是非、過去の文献を注意深く読んでみてほしい」と参加されている先生方へお話しされました。

僧帽弁逆流に対して、なぜ弁形成術が推奨されるのか?

岡田先生

 

そもそも僧帽弁逆流に対して、なぜ僧帽弁置換術ではなく僧帽弁形成術が推奨されているのでしょうか。
僧帽弁形成術と僧帽弁置換術の治療成績を比較した研究では、僧帽弁形成術の方が手術死亡率、合併症の発症率、再手術率などが有意に低いことが分かっています。また、僧帽弁形成術では抗凝固薬を長期的に服用する必要がないことからも、僧帽弁置換術よりも僧帽弁形成術が推奨されています。
ただし、僧帽弁形成術が推奨される大前提は、僧帽弁形成術の施行において良好な治療成績を収めている医師が担当するということです。すなわち、僧帽弁形成術の技術をしっかりと身につけることは、心臓血管外科医の使命ともいえるでしょう。

僧帽弁形成術の手技の変遷

1957年頃から、僧帽弁逆流に対して弁輪縫縮術が行われてきました。しかし当時は、心エコーもなかったため、術中に聴診器を使うなど、様々な方法が試行錯誤されましたが、なかなか安定した長期成績を得ることはできませんでした。
その後、後尖の逸脱に対するMacGoon法が、1971年には人工弁輪(リング)を使った僧帽弁形成術であるCarpentier法が考案されました。そして1980年、Carpentier氏は10年の長期治療成績から僧帽弁形成術において以下のような手技を提唱しました。

<弁尖切除の方法>

後尖:弁尖の自由縁に過度な張力がかかるのを防ぐため、四角切除術を行う
前尖:三角切除を行い、弁尖の端を断続的な6-0ポリプロピレン糸を用いて縫合する

<腱索の短縮(伸びてしまった前尖の腱索に対する治療)>
  • 短縮プラスチックを使って修復する
  • 乳頭筋をスライドさせてプラスチックで修復する

また、Carpentier氏は僧帽弁形成術の適応について、腱索が断裂している場合では、後尖の逸脱が3分の1以下であれば一次適応としていますが、後尖の逸脱が2分の1以上であったり、前尖のメインの腱索が断裂していたりする場合には禁忌としています。
なお、腱索が伸びてしまっているだけであれば禁忌とはしていません。

フレキシブルリングとリジットリングの比較

1976年、Duran氏は僧帽弁形成術におけるフレキシブルリングの有用性について発表しました。これを受け、私はフレキシブルリングとリジットリングを比較した研究を行い、その内容を1995年にThe Annals of Thoracic Surgeryに投稿しました。
研究の結果、リジットリングに比べてフレキシブルリングの方が弁輪の動きに与える影響が少なく、後尖部分の動きも良好であることが分かりました。

ePTFE人工腱索を用いた腱索再建術の課題

1964年にFrater氏がThoraxに発表した論文では、「僧帽弁形成術では腱索さえきちんと再建することができれば、僧帽弁逆流は改善できる」と述べ、腱索再建の重要性について言及しています。
現在、腱索再建術は主にePTFE(ゴアテックス)人工腱索を使って行われていますが、この方法には以下のような課題があります。

  • 適切な本数の選択
  • 適切な人工腱索長の設定
  • 結紮時の滑りを回避する方法

1970年には、正常な男女の腱索を計測した研究が行われ、全症例を平均して前尖よりも後尖のほうが3mmほど短く、両者の長さがまったく同じではないことが分かっています。人工腱索の長さを決定する上では、このような解剖学的な理解を深めておくことが重要です。

”Respect rather than resect”

Patrick Perier氏は僧帽弁に対する原理として”Respect rather than resect”と提唱しています。これは、弁尖を切除するだけでなく、人工腱索をしっかりと再建することで僧帽弁形成術を行うべきであるという考え方です。但し、これの意味するところは、弁尖を切除するべきではないということではなく、弁尖は必要に応じて切除するべきだという考えであることを理解しておく必要があります。

ループテクニックの考案

2008年にはMohr氏によってループテクニックが考案されました。ループテクニックは、事前に人工腱索の長さを決定した上で、ゴアテックスを使って人工腱索を作成しておく方法です。現在も広く行われており、MICSにおいても良好な治療成績を収めています。

高齢者であっても、可能であれば僧帽弁形成術を行う

上のスライドは、僧帽弁形成術と僧帽弁置換術の生存率を比較した研究結果を示したグラフです。ご覧の通り僧帽弁形成術の方が、有意に生存率が高いことを示しています。
更に興味深いのは、年齢の若い患者さんだけでなく、75歳以上の高齢の患者さんでも生存率に有意差がみられるということです。
つまり、高齢者だからといって一概に僧帽弁置換術を選択するのではなく、高齢者も可能な限り僧帽弁形成術を行った方がよいことが分かります。

僧帽弁形成術のクオリティを保つために

近年のガイドラインなどの傾向をみていると、今後僧帽弁形成術を行うタイミングが早まっていくと考えられます。軽症の患者さんに対する手術が増えてくると考えられる中で、手術を行うことでかえって症状を悪化させることは防がなくてはなりません。そのためには、手術のクオリティを保ち、再手術とならないような僧帽弁形成術を行う必要があります。
手術のクオリティを担保するためには、僧帽弁形成術を行う病院をある程度集約化するべきではないか、などさまざまな議論がなされています。
何よりも、手術のクオリティは心臓血管外科医の能力にかかっています。そのため、今回のようなトレーニングプログラムに積極的に参加して、心臓血管外科医としての腕を磨いていってほしいと思います。

次:僧帽弁形成術の手術見学

 

 

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