レポート(取材記事)

第9回日本心臓弁膜症学会アフタヌーンセミナー 
三尖弁逆流に対する手術のタイミング(前半)(1/2)

2018年12月14日(金)・15日(土)、第9回日本心臓弁膜症学会が開催され、その初日に日本メドトロニック株式会社共催のアフタヌーンセミナー「三尖弁逆流に対する手術のタイミング」が行われました。
本セミナーでは、有田武史先生(九州大学)と松居喜郎先生(北海道大学)を座長にお迎えし、日本を代表する5名の先生方よりご講演をいただきました。本記事では、セミナー前半に行われた内科セッション、三宅誠先生(天理よろづ相談所病院)、続いて大門雅夫先生(東京大学)のご講演内容をレポートします。


▲ 座長を務める有田武史先生・松居喜郎先生


三尖弁閉鎖不全症の至適な手術タイミング


▲ ご講演中の三宅誠先生

三宅先生

 

近年、重症三尖弁閉鎖不全症の患者数が増加傾向にあり、2006年に米国から発表されたデータでは、約160万人の方が中等度から重症の三尖弁閉鎖不全症を持っているといわれています。
また、2014年に欧州のTopilsky先生が発表された論文によると、重症三尖弁閉鎖不全症の予後は単独発症であっても非常に悪いといわれているにもかかわらず、約16%(およそ6人に1人)しか手術を受けていないことがわかっています。
このような現状から、重症三尖弁閉鎖不全症に対して、どのようなタイミングで手術を行うべきなのかが近年大きな課題となっています。

さて、三尖弁閉鎖不全症に関するガイドラインでは、手術適応についてどのように記載されているのでしょうか。
2014 AHA/ACC Guidelines for VHDでは、症状がある場合には弁形成術または弁置換術を行うことが推奨されており、症状がない場合には進行性の右室機能障害があればClassⅡbで推奨されています。
また、2017 ESG Guidelines for VHDの中で、重症三尖弁閉鎖不全症では症状がある場合には、可能ならば弁形成術が推奨され、弁形成術が難しいようであれば弁置換術を行うようにとされています。また、症状がない場合には、右室の拡大や機能障害があれば手術の適応です。
つまり、現状の各種ガイドラインにおいて、重症三尖弁閉鎖不全症の手術は、有症状の場合に推奨されており、右室拡大や右室機能障害があれば無症状であっても手術の適応となるとされているのです。
ところが、先ほどお示ししたTopilsky先生の論文を細かく分析してみると、重症三尖弁閉鎖不全症であっても、静脈圧の上昇や浮腫がみられるなどの症状がある患者は全体の半数以下にとどまっています。更に、多くの患者で右室機能に異常はなく、結局のところ重症三尖弁閉鎖不全症であっても多くは無症状かつ右室機能が正常なのです。

天理よろづ相談所病院における症例提示(1)

それでは、当院における重症三尖弁閉鎖不全症の手術症例をご紹介します。
まずは重症三尖弁閉鎖不全症の70歳代女性の症例で、労作時息切れと浮腫がみられましたが、利尿薬の処方で症状が改善するため、10年間薬物治療で経過観察を行っていました。しかし、服薬をしても息切れと浮腫がみられるようになったため、手術を行うこととなりました。術前エコーでは、右室の拡大がみられました。
手術では、生体弁による弁置換術と右房化右室の縫縮を行っています。しかしながら、術後1週間のエコーでは右室機能が改善しておらず、術後1か月経過しても右室が拡大したままで動きが悪い状態でした。今でもたまに、胸水穿刺の処置を行っています。
このような術後の経過から、もう少し早めに手術を行うべきだったか、もしくは弁置換術ではなく弁形成術を選択すべきだったのではないかと考えられる症例です。

天理よろづ相談所病院における症例提示(2)

次にご紹介するのは、労作時息切れで当科に紹介された重症三尖弁閉鎖不全症の70歳代女性の症例です。浮腫はみられませんでしたが、チアノーゼがみられたためSaO2を測ってみると86%と非常に低い状態でした。右室機能は、先ほどお話しした症例(1)の方よりは良好でした。
但し、チアノーゼがみられたため、経食道心エコーを行ってみると卵円孔開存がみられました。そのため、早急に生体弁による弁置換術と右房化右室の縫縮、卵円孔の閉鎖を行いました。
術後1週間は右室機能の低下がみられましたが、1か月後のエコーでは右室機能の改善がみられるようになりました。おそらく、卵円孔開存があったことで手術を早い時期に行うことができたため、このような結果を得られたと考えられます。

単独重症三尖弁閉鎖不全症の予後を示した論文は少ない

単独発症の重症三尖弁閉鎖不全症に関する予後について報告された論文は非常に数少ないです。

上のスライドに示したグラフは、右室機能と予後の関係性について調査した論文から引用したもので、RVESAが20cm2を越えると三尖弁閉鎖不全症の術後の予後が悪いという結果を示しています。しかしながら、調査対象となった患者の約9割に左心系の手術の既往があり、単独三尖弁閉鎖不全症の結果を示したデータではありません。また、同じ論文では心不全が進行していたり、Hb値が低下している状態で手術を受けても予後が悪いことが示されています。

上のスライドのグラフは、貧血・低アルブミン血症・腎機能障害を併存している患者では三尖弁閉鎖不全症の術後の予後が悪いことを示す論文より引用したものです。しかし、この報告も8割以上の患者が左心系の同時手術を受けているため、純粋な三尖弁閉鎖不全症の手術の結果ではありません。
また、他の論文では肝機能障害があると三尖弁閉鎖不全症の手術死亡が増えることを示していますが、これも半数以上の患者が左心系の同時手術を受けており、単独重症三尖弁閉鎖不全症の結果を示してはいません。

手術リスク上昇の悪循環に陥る前に、手術に踏み切るべき

重症三尖弁閉鎖不全症の手術適応について、現状のガイドラインでは「症状がある場合に推奨」とされていますが、症状が現れた時には既に手術リスクが高くなっているのではないかと考えられます。
重症三尖弁閉鎖不全症であっても、多くの場合において見かけ上は右室機能が保たれている状態です。そのため、右室機能障害や右室拡大に関する明確な指標はしっかりと確立されていません。
もともと手術リスクが高い患者の手術のタイミングを遅らせてしまうと、年齢が上がり、また併存疾患も増えていきます。すると、更に手術リスクが高くなるという悪循環に陥ってしまいます。
重症三尖弁閉鎖不全症の至適手術時期に関するエビデンスはまだまだ乏しいですが、特に若い患者に対しては、もっと早い段階で手術を行うべきなのではと考えています。

次:三尖弁閉鎖不全症の手術のタイミング

 

 

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