レポート(取材記事)

第9回日本心臓弁膜症学会ランチョンセミナー
エビデンスとエクスペリエンスから僧帽弁手術を再考する(1/2)

2018年12月14日(金)・15日(土)、第9回日本心臓弁膜症学会が開催され、その初日に日本メドトロニック株式会社共催のランチョンセミナー「Reconsideration of Mitral Valve Surgery from Evidence and Experience: Concomitant Procedures and Ring Selection」が行われました。 本セミナーでは、荒井裕国先生(東京医科歯科大学)を座長にお迎えし、Marc R. Moon先生(Washington University School of Medicine, U.S.A)と山﨑真敬先生(慶應義塾大学)よりご講演いただきました。


▲ 座長を務める荒井裕国先生


同時心房細動アブレーションを、どの患者のどのような病変に対して行うか?


▲ ご講演中のMarc R. Moon先生

心房細動に対する外科治療 - メイズ手術の開発

Moon先生

 

本日は、心房細動を併存している患者に対してどのような治療を行うべきかについてお話をさせていただきます。
皆さんもご存知の通り、心房細動を併存していると脳卒中の発症リスクや死亡リスクが上昇したり、入院費が増加したりするなどさまざまな弊害をもたらします。
このようなリスクがあるにもかかわらず、心房細動を併存している患者は少なくありません。たとえば、CABGを受ける患者の約10%、僧帽弁手術を受ける患者の約33%は心房細動を併存していることがわかっています。
このような患者の心房細動に対しては、薬物療法、カテーテルによるアブレーション治療、外科手術などいくつかの治療の選択肢がありますが、本日は心房細動に対する外科手術「メイズ手術」について主にお話しいたします。

メイズ手術は、今から28年前にワシントン大学のJames Cox先生によって開発されました。開発以来、メイズ手術の術式は進化を遂げており、1995年には「Cox-MazeⅢ」の治療成績が発表されました。
このCox-MazeⅢは非常に良好な長期治療成績を出しています。術後10年間で薬物治療なしで心房細動を再発しなかった方は全体の約80%、薬物治療をしていて心房細動を再発しなかった方は全体の約16%という成績となっています。つまり、手術をした方の約90%は術後10年間、一度も心房細動を再発しなかったという結果となりました。

Cox-MazeⅢからCox-MazeⅣへ

このような良好な治療成績が出ているため、「もっと多くの患者さんに対してCox-MazeⅢを行えばいいのではないか」という意見が多くありました。しかし、Cox-MazeⅢは人工心肺が必要だったり、手技が非常に複雑なためにこの手術が施行できる外科医が限られるという問題点があります。
一方で、カテーテルアブレーション治療は非常に侵襲が低く、治療成績も優れています。そのため、Cox-MazeⅢで切開縫合していた部分を、アブレーションラインに置き換えれば、それまでのように心房を大きく切る必要もなく、手技が簡素化するのではないかという考えが生まれました。そのような考えのもとで生まれた新しいメイズ手術が、「Cox-MazeⅣ」です。

Cox-MazeⅣを行う上で最も重要なのは、電気刺激を遮断するための貫壁性かつ連続性を持つ病変をいかにして作成するかということです。

ワシントン大学におけるCox-MazeⅣの成績

それでは、ワシントン大学におけるCox-MazeⅣの治療成績をご紹介します。2002年1月から2018年11月までの間に、846名に対してCox-MazeⅣを行っています。

上のグラフは、Cox-MazeⅣの術後12か月の心房性頻脈性不整脈の発症率について100例を対象に調査したものです。調査では、左右の上下肺静脈をつないだBox-Lesion Set(黒)と左右の下肺静脈だけをつないだNon Box-Lesion Set(白)を比較しています。グラフ左が薬剤を使用して心房性頻脈性不整脈が起こらなかったグループ、グラフ右が薬剤を使用せずに心房性頻脈性不整脈が起こらなかったグループです。
グラフをご覧いただくとわかるように、薬剤を使用した患者、使用しなかった患者の双方共にBox-Lesion Setで行ったほうが心房性頻脈性不整脈の発症率が低いことがわかっています。
このような結果から、現在ワシントン大学ではCox-MazeⅣが適応となる全ての患者に対して、Box-Lesion SetによるCox-MazeⅣを行っています。

また、Cox-MazeⅢとCox-MazeⅣの治療成績も比較しています。結果をみてみると、人工心肺時間、死亡率、心房性頻脈性不整脈の発症率、ペースメーカー植え込みとなった患者数などの値はほぼ同等といえます。しかし、大きな合併症の発症率は、Cox-MazeⅢよりもCox-MazeⅣの方が少なくなっています。
実際に、Cox-MazeⅣでは、700例以上の連続症例で、穿孔や肺静脈狭窄などの付随する損傷は起きておらず、安全性においても優れた治療法といえます。

持続性心房細動に対する肺静脈隔離術は、術後の心房細動再発率が高い

続いて、肺静脈隔離術についてもお話しします。ワシントン大学では、発作性心房細動と持続性心房細動の患者に対して肺静脈隔離術を行い、それぞれで術後6か月の間に心房細動が発生しなかった割合について調査しました。
結果は、発作性心房細動のグループでは、抗凝固薬を服用する、服用しないに関わらず多くの患者が心房細動を再発せずに経過しましたが、持続性心房細動のグループでは心房細動を再発しなかった患者は、抗凝固薬を服用した場合で約56%、抗凝固薬を服用しなかった場合で約39%にとどまりました。
このような結果から、持続性心房細動の患者に対しては、肺静脈隔離術ではなくCox-MazeⅣが推奨されます。

私たち外科医は、どのような患者に対し、どのように治療を行うべきか?

それでは、具体的に、どのような患者に対してCox-MazeⅣを行うべきなのでしょうか。
先述した調査結果からわかるように発作性心房細動の患者や、そのほか左房の径が小さな患者であれば肺静脈隔離術を行うことができます。しかし、患者の大多数やカテーテルアブレーション治療がうまくいかなかった患者に対しては、Cox-MazeⅣを行うことを推奨します。

外科的な心房細動治療を行う上では、電気生理学者と外科医がしっかりと協力をして、術前の評価によって治療法を選択することが大切です。また、術後もきちんとしたフォローアップをしていき、私たち外科医はリソースと時間をかけて、治療の結果について適切な評価を行っていくことが重要でしょう。

次:慶應義塾大学病院における僧帽弁形成術後の僧帽弁位平均圧較差の検討
~complete ringとpartial bandの比較~

 

 

お気に入りに追加しました

× 閉じる

ページトップ