レポート(取材記事)

僧帽弁形成術・三尖弁形成術の治療戦略や手技をエキスパートから学ぶ(1/5)

2018年9月2日(日)、日本メドトロニック株式会社大阪支店にて、「P2P Excellence - for the Best of Best 最善の治療をエキスパートと共に考える」が開催されました。今回のプログラムでは、僧帽弁形成術と三尖弁形成術に関するレクチャーとブタハツを使用したウェットラボが行われました。
今回のプログラムのトレーナーを務めたのは、夜久均先生(京都府立医科大学)と村上貴志先生(大阪市立大学)です。

僧帽弁形成術に関するレクチャー

はじめに、夜久均先生による僧帽弁形成術に関する講義がありました。昨今、僧帽弁形成術を行うタイミングが早くなってきているということにふれ、健康な患者さん(healthy patient)を手術する機会が多くなる中での留意点についてお話をされました。

僧帽弁形成術の手術時期は早くなってきている

夜久先生

 

僧帽弁形成術は冠動脈バイパス術とは違い、テクニックよりも「コンセプト」が非常に重要です。ですから、症例経験を積み重ねること以上に、手術に対する理屈や考え方を自分自身のなかで持っておくことが大切であるといえます。

2017年にAHA/ACC弁膜症のガイドラインが一部改訂されました。改訂前のガイドラインでは、症候性の重症僧帽弁閉鎖不全症が手術適応であることはもちろんのこと、無症候性の重症僧帽弁閉鎖不全症でも予後を損ねる可能性があるとして、左室機能不全(EF60%以下、ESD40mm以上)がある場合には手術適応とされていました。
今回の改訂では、明らかな左室機能不全がなくても、EF60%以下、ESD40mm以上という数値に近づいているのであれば、手術を考慮すべきであるという内容が追加されました。
また、左室機能不全・心房細動・肺高血圧がなくても、僧帽弁形成ができる確率が95%以上で、予想される死亡率が1%未満(手術リスクが低い)の時には手術を推奨するとされています。
この改訂でも分かるように、僧帽弁形成術の手術時期はどんどん前倒しになってきています。また、症状が出ないうちに手術を行うことで予後に大きな差が出ることは、メイヨークリニックの研究で明らかとなっています。

左から岡本一真先生、阿部恒平先生、紙谷寛之先生

早期手術を行う上で考えるべきことは?

早期で僧帽弁閉鎖不全症の手術を行うということは、健康な患者(healthy patient)に対して手術を行わなくてはならない場合があります。たとえば、マラソンなどの運動が問題なくできる方に対して手術を行う場合には、術後も同じレベルの運動ができる状態を維持する必要があります。単に僧帽弁閉鎖不全症という病気を治すだけでなく、考慮すべき要素が 多くあります。

※Patient’s factor(患者的要因)

ひとつはPatient’s factor(患者的要因)として、EF以外のより詳細な心臓の機能指標によっても、予後が左右されるということです。
僧帽弁形成術を行うことで、左室そのものは窮屈になるためEFは必ず低下しますが、それが40%以下にまで低下すると、術後の予後が悪くなることがわかっています。そして、EFが40%以下にまで低下する因子としては、術前のRVSPが49mm以上、LVESDが36mm以上の場合といわれています。
また、術前のEFが60%以上であっても、GLS(global longitudinal strain)が低いと予後が悪いことがわかっていて、GLSが19%以下の場合には、より早期に手術を行うべきであるとされています。
このように、EFでみる心機能が良好であったとしても、予後を損ねる可能性があることを知っておくことが大切です。

※Surgeon’s factor(外科医的要因)

心臓血管外科医としては、どのようなアウトカムを目指すべきなのかを明確にしておく必要があるでしょう。
日本の僧帽弁形成手術は過去10年でおよそ2倍にまで増加していて、院内死亡率や術後30日以内死亡率も良好な成績を収めています。しかし今後は、現状1%程度の死亡率を0.5%程度にまで減少させ、術後10年間の再手術率は10%程度を目指すべきでしょう。
また、AHA/ACC弁膜症ガイドラインにある「Repair Rate(修復率)」について、米国のSTSデータベースによると、年間50例ほど僧帽弁手術を行っている心臓血管外科医であればRepair Rateが安定していることがわかっています。このようなデータからも、僧帽弁形成術はテクニックではなく、コンセプトがいかに重要であるかということがわかります。

次:僧帽弁形成術における原則

 

 

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