レポート(取材記事)

両側内胸動脈を用いたOPCABの知識と技術をエキスパートから学ぶ (1/5)

2018年6月24日(日)、メドトロニックイノベーションセンターにて「New Frontier~Beyond the Future OPCABの醍醐味をエキスパートと共に体感する」が開催されました。今回のトレーニングプログラムのテーマは「両側内胸動脈を用いた心拍動下での吻合をマスターする」です。プログラムのトレーナーは、下川智樹先生(帝京大学医学部附属病院)と真鍋晋先生(土浦協同病院)が務めました。

真鍋晋先生によるレクチャー「CABGのこれから」

はじめに、真鍋晋先生のレクチャーが行われました。レクチャーは、参加された先生方の意見を交えながら、CABGの基本的な知識や今後について全員で考えるものでした。以下、真鍋晋先生のレクチャーの概要です。

心臓血管外科の診療はメガトライアルの結果に大きく左右される

2009年以降、左室形成術の手術件数は著しく減少しています。これは、2009年に行われたSTICH試験が大きなきっかけです。
STICH試験は、低左心機能(EF35%以下)を伴う虚血性心疾患に対して、CABGだけを行うグループと、CABGと左室形成術を行うグループに分けて、平均4年間における総死亡数や心臓病入院数を確認したものです。試験の結果は両グループに差がなく、本症例における左室形成術の有用性は証明されませんでした。この結果を受けて、左室形成術の手術件数は2009年以降大きく減少していきました。
このように、トップジャーナルに掲載される大規模無作為化比較試験の結果によって、心臓血管外科の診療トレンドは大きく変化します。そのため、日頃から大規模無作為化比較試験に注目しておくことで、今後の診療トレンドを予測することができます。

CABGとPCIを比較した「SYNTAX試験」とは?

では、CABGの動向はどうでしょうか。CABGの件数はDESが登場した2000年代初頭から減少していきましたが、2012年頃から減少が止まり横ばいに踏みとどまっています。これは、CABGの有用性が証明された、SYNTAX試験とFREEDOM試験という2つのメガトライアルがあったためです。
SYNTAX試験は、三枝病変または左主幹部病変を有する1800例をCABGとPCIに振り分け、5年間の追跡調査でMACCE(脳血管障害を含めたもの)の発生を比較したものです。
SYNTAX試験において留意すべき点は、全例が無作為化されたわけではないということです。1800例のうち、明らかにCABGもしくはPCIが適している症例については、循環器内科医と心臓血管外科医によって除外されています。つまり、専門家が協議してもCABGとPCIのどちらが適しているのか分からない約6割に対してのみ無作為化比較試験が行われているのです。
試験結果は、PCIのほうがMACCEの発生率が高く、PCIの非劣勢は証明されませんでした。そして結論としては、SYNTAXスコア(冠動脈病変の形態と重症度を数値化したもの)が高い症例はCABGを推奨するが、SYNTAXスコアが低い症例についてはPCIを推奨する、という消極的な結論となっています。

CABGの3つの利点

CABGがPCIに比べて優れている点として、バイパスを置くことによる以下の3つがあると考えています。

  • リスクの分散
  • 将来のイベントを予防
  • 内胸動脈という有効な武器がある
※リスクの分散

1つ目の利点はリスクの分散です。
冠動脈には動脈間の交通がなく、虚血に対する側副血行がありません。特に、心筋に最も多くの血液を供給している左主幹部に虚血が生じると非常に危険です。そのため、左主幹部に新しい血液の通り道となるバイパスを置くことで、イベント発生時のリスクを分散することができます。そして、これはいくつかの研究でも明らかとなっています。
BARI試験を解析してCABGまたはPCIを施行後に急性心筋梗塞を発症した方の予後を比較すると、CABGを受けた方の予後が明らかに良好であることがわかっています。また、薬物治療とCABGを比較したSTICH試験の解析では、CABGによって突然死の発生を少なくできることもわかっています。つまり、CABGによって複数の血液供給路ができることで、冠動脈が閉塞したときのダメージを抑えることが可能です。

※将来のイベントを予防する

2つ目は、将来起こりうる新規イベントを予防できる点です。
ある研究では、PCI治療後に発症した虚血性心疾患を、治療病変の再燃と新規病変に分類して、その発生頻度を調査しています。すると、46.4%が新規に起きた虚血性心疾患でした。
つまり、虚血性心疾患を発症する患者さんの冠動脈には、発症原因となる潜在的な病変がいくつもある状態ということがわかります。PCIでは発症した部分の治療しかできませんが、CABGは病変部の治療に加えて発症前の隠れ病変に対応できることは、大きなメリットといえるでしょう。

※内胸動脈という有効な武器がある

3つ目は、CABGには内胸動脈という有効な武器がある点です。
内胸動脈が優れている理由の1つは、動脈硬化に強く経年劣化しないことです。

これは、大伏在静脈と比較すると明らかです。内胸動脈と大伏在静脈の経過を2年、6年、12年と追うと、大伏在静脈は2年後の時点ですでに内膜肥厚がみられます。これは、大伏在静脈には脂肪を貪食したマクロファージ(泡沫細胞)が多く入ってくることで、動脈硬化が起きてしまうためです。一方で、内胸動脈は弾性繊維が多く内弾性板が強いために、何年経っても内膜の厚さはほぼ変わらず、経年劣化しません。
内胸動脈の2つ目の利点は、時間とともに変化する生きたグラフトであることです。イヌを使った動物実験では、内胸動脈に動静脈を吻合すると、時間が経つにつれて内胸動脈の太さが変化することが示されています。また、内胸動脈のなかで血流が増加すると、血液と血管の摩擦が増えることで内膜からNO(一酸化窒素)が分泌され、血管が拡張する仕組みがあることもわかっています。
このように、内胸動脈は経年劣化しないうえに時間とともに変化する血管であり、開存率も良好であることから、バイパスには非常に適した血管なのです。
2018年現在は、片側内胸動脈を使用したCABGと両側内胸動脈を使用したCABGの生存率を比較したART試験が進行中です。この試験で両側内胸動脈を使用したCABGの有用性が示されれば、将来的なCABGの手法が大きく変わっていくことでしょう。

次:一枝バイパスを想定したハンズオントレーニング

 

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